「トシ……後を頼む…」



それがあの人と


近藤さんと交した最後の言葉だった

















近藤さんの死を知ったのは、ここ会津について間もなくの事だ。

助かるかもしれないと、一縷の望みを抱いて北へと転戦してきた。

だが、そんな望みも砕かれちまった。




宇都宮城で受けた傷が癒えず、俺はしばらく戦陣には加わることができなかった。
ただじっとしていると、ロクでもねぇ考えばかりが頭を過る。


もし鳥羽伏見の戦いで、近代戦術を使っていれば……
甲州勝沼の戦いで、もっと早く援軍を呼ぶ事ができたら……
近藤さんに、新政府軍への出頭を勧めなければ……



全ては過ぎちまった事だ。
今更悔やんだ所で、どうとなる訳でもねぇ。
京に上洛してから今まで、ずっと前だけを見て突き進んできた。


近藤勇を、真の大将にしてやるためだけに。



後ろを向くなんざ、俺らしくねぇって、あの人は怒るだろうか。



皆が新政府軍と抗戦する中、俺は自分自身を責めながら、
天寧寺の裏山に通い続けた。











完成したばかりの、近藤さんの墓に手を合わせる。
本当は、こんな場所じゃなく、ちゃんと故郷で弔ってやりてぇんだけどな。
「すまねぇ近藤さん………」
今まで張り詰めていたものが、一気に緩み出す。

近藤さんには、いつも凛として、陽の当たる道を歩いていて欲しかった。
そのためなら、俺は喜んで影になる。
誰かが手を汚さなければならないなら、全て俺が引き受けよう。
そうして、今まで何人の命を奪っただろう。
どれほどの恨みを買っただろう。
罰せられるべきは、俺だったのに。
近藤さんは、俺の罪も背負わされて………



「あんたは、何一つ悪いことはしてねぇってのに……」


握った拳が震え出す。
「俺にとって近藤さん、あんたは新選組の全てだったんだ。
あんたを失った今、俺はどうすればいい?
もう俺には、何も残っちゃいねぇ。」







「土方さん、こんな所にいたんですか?」
背後から声をかけられ、俺は驚いて振り返った。
「宿に行ってもいらっしゃらないから、探したんですよ。」
、島田、それにお前達どうしてここに………」
「母成峠が第三台場まで陥落してしまい、止む無く退却してきたんです。」
「そうか、母成峠まで……」




既に会津は、三方向を新政府軍に囲まれている。
母成峠が突破された今、猪苗代を通過されるのも時間の問題だろう。
そうなれば、若松も危うい。




考え込んでいた俺に最初に声をかけたのは、島田だった。


「土方さん、水臭いじゃないですか!」
「水臭い?」
「そうですよ!何でも一人で背負い込んで。
近藤さんの死は、土方さんのせいじゃありません!
我々隊士の責任です。」


続いてが口を開いた。


「土方さんにとって、近藤さんが新選組の全てだったように、
私達にとって、土方さんの存在が新選組なんです。
貴方が決断されるのなら、何処まででも付いて行きます!」


他の隊士も次々と口を開く。
「新選組はまだ終っちゃいません。」
「何処までも戦い続けましょうよ!」
「新選組の誠を、新政府軍の奴らに見せつけてやりましょう!」

「お前ら、聞いてたのか………」


目に熱いものが込み上げ、耐えきれなくなった俺は、慌てて皆に背を向けた。

「本当に俺と来ていいのか?」

「はい!」

「後悔はしねぇな?」

「勿論です。」

「あれ?もしかして土方さん、泣いてます?」
「うるせぇ!目にゴミが入っただけだ!」
「照れちゃって………」
!島田っ!!」

全く、こいつらときたら……











「そうさ、俺に会いに来るにはちぃ〜とばかし、早過ぎるだろ?」

「…………えっ!?」

聞き馴染みのある声が聞こえた気がした。
俺達の間を、爽やかな風が吹き抜けた。
まるであの人が、背中を押してくれてるような………



「近藤さんを罪人のままにはしておけねぇ。
あの人の汚名を晴らすためにも、俺達はここで消えるわけにはいかねぇんだ。」
「土方さん!」
「今から会津公の所へ行く。覚悟のある奴はついてこい!」
「はいっ!」
隊士達を引き連れ、俺は裏山を下り始める。






近藤さん、今はこれでいいんだよな?
あんたの汚名は、必ず晴らしてやる。
例えこの命に変えてでも。
それまで、もう少しだけ、一人で待っててくれるか?






「それにしても、新選組は馬鹿ばっかり揃ってやがるぜ。」
ふと、小声で漏らした一言だったんだが、すぐ後ろを歩いていたに聞こえたらしい。
「それは土方さんも含めて、ですよね?」
「フッ……まぁな。」


裏山を下る途中、一度だけ後ろを振り返った。
日差しが眩しくて、近藤さんの墓はよく見えなかったが、
あの人が墓の前で笑っているような気がした。









あとがき

10月に「土曜スタジオパーク」で「組!!」の特集があり
山本副長と照英魁さんのやり取りを見てたら、書きたくなったお話です。
近藤さんの死を知ってから、再び新選組を率いて戦う決意をするまで、
きっと土方さんはいろいろと葛藤したんじゃないのかな…と想像しまして。
箱館新選組の原点ともなる部分を書いてみたかったんです。
おかげで、ちっとも甘くないお話ですが……
隊の皆は、土方さんの表面「鬼』の部分だけじゃなくて、
ちゃんと内に隠した「優しさ」も知ってて、それで慕っているんだ
という部分が、ど〜しても書きたかったんです。
どれだけ冷たくあしらおうが、何をされようが、
きっと鈴花ちゃんと島田さんは、どこまでも副長について行くんですよ(笑)。



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